糖質制限食 栄養のあれこれ

糖質制限食や栄養に関する事について、管理栄養士・登録販売者の視点で考えていきます。

ハンガーノックはなぜ起きるのか?

ハンガーノックという言葉は、ご存知でしょうか?

 

ハンガーノック(英語: Hitting the wall)は、激しく長時間に渡るスポーツの最中、極度の低血糖状態に陥ること。
日常生活中に発生することは稀である。
自動車に例えるならばガス欠であり、肉体がエネルギーを失った状態を意味する。
この時、自らの意志とは関係なく、体は動きを停止する。
意識がはっきりしている場合でも、思考は通常より鈍る。
休息を取ることで、脂肪など分解に時間がかかるエネルギーが供給されて回復する。
より早い回復には、ブドウ糖・果糖などの糖質補給が有効である。一番早く回復させるには点滴を打つ。
予防策として、耐久競技など長時間に渡るスポーツにおいて、適度な補給食をこまめに摂取することがあげられる。

ウィキペディア参照

 

上記の通り、「激しく長時間に渡すスポーツの最中、極度の低血糖状態」に陥る事を、ハンガーノックと言います。

どういうスポーツかというと、マラソン・ロードレース・トライアスロンクロスカントリー・登山といった種目が、一般的にあげられます。

簡単に言うと、長時間の筋肉の負荷により、筋肉中のオリゴ糖が激しく消耗し、筋肉を動かすエネルギーが無くなった状態を指します。

 

マラソン中継を見ている人はご存知かもしれませんが、30㎞を超えるくらいから、次々と失速していく選手が出てきます。

それは、大会前からカーボローディングを行なって肝臓や筋肉にため込んだグルコース(糖)を一気に使い果たして、身体の生命の危険を感じてしまうほど、体内でエネルギーを生みだす事が出来なくなりつつあるからです。

もちろんそれだけが要因ではなく、水分補給不足や、体内のミネラルバランス崩壊による脱水症状等も挙げられます。

 

カーボローディングをどのようにしているかは、その競技の種類や、選手の考え方により様々のようですが、サイトで見つけた実践例を挙げておきます。


・レース3日前から
朝食 切り餅3個+いつもの食事
昼食・夕食、いつもより1.2~1.5倍の炭水化物量を摂取
間食も脂質の少ない糖質(スナック菓子等ではなく、おにぎり・パン・バナナ等)を摂取

・レース当日
朝食 切り餅3個・みそ汁・バナナ・みかん・ヨーグルト
開始2時間以上前 カロリーメイト一箱
1時間毎 アミノバイタルゼリー摂取

という感じの食事をし、ゆっくりと身体にグルコースを蓄積させて大会に備えているようです。

 

ここで紹介したのは、あくまでも一例です。

カーボローディングを行なう上で、どれだけの糖質量を蓄積したりとか、競技開始前・競技中にどれだけの糖質を摂るという定義がないそうです。

選手それぞれが、自身にとって適切な量を自分で選択し、ルールを作って競技に臨んでいるそうです。

 

ここで注目すべき点があります。

低血糖状態が、なぜ起こるのか?という事です。

 

不思議ではないですか?

前日も当日も、たっぷりとグルコースを摂取し、エネルギーを貯め込んでいます。
オリンピックのような所では、給水所でエネルギーバランスを調整した特別なドリンクを補給しています。
一般の大会でも、バッグから補給のためのゼリーやドリンクを取り出して、いつでも補う事が出来ます。
ですが、ハンガーノックの危険性は、常につきまとっています。

 

要因は、インスリンです。

 

血糖値を下げるホルモンとして有名ですね。

その血糖値を下げるという働きにより、激しいスポーツをしながらだと低血糖に繋がってしまうのです。


糖質を口にして血糖値が上昇すると、インスリンが分泌されます。

それによりゆっくりと血糖値が下降し、通常の状態に戻す働きをしてくれます。

各種ホルモンは生命維持に必要であり、互いに影響を与えながら作用しています。

 

通常であれば、インスリンの分泌も正常値になるくらいには、分泌も終わり、必要以上に下がらないように調整されます。
目安として、80~140mg/dlの範囲内が正常値となり、それ以下にはならないようにしています。

それよりも下がってしまうと、主な症状として異常な空腹感・脱力感・生あくび・動悸・冷や汗・手や指の震え・眠気・集中力の低下・頭痛・痙攣・意識混濁や昏睡状態などがあげられます。
これらは脳が正常に活動できなくなりつつあることを示しています。
意識混濁や昏睡状態(30mg/dl以下)まで陥ると、死に至る可能性があります。


それでは、なぜ低血糖にならない程度にしか作用しないはずのインスリンが、普段以上に血糖値を下げて、生命の危機まで脅かしてしまうのか?


かなり強度の運動をしているからです。


通常、インスリンは常時働いています。
血糖値が上昇すれば、それに応じた量を分泌し、糖尿病といった疾患を患っていないようなら、1時間後には緩やかな下降と作用していきます。
分かりやすく、数字で表現します。この数字はあくまでもイメージに基づくもので、実際とは異なるので、ご了承下さい。


通常値の血糖が60だとします。
食事によって90まで上昇しました。
プラス30です。
その上昇して90になった血糖を60にするために作用するのが、インスリンです。
この時、プラス分の30に対応するだけのインスリンを分泌します。
それがゆっくり作用していき、通常の60にします。


これが、通常時です。

かなり強度の運動をしているとどうなるかという話をします。

 

カーボローディングを行なっているので、通常時よりも少し高く、70とします。
運動をする事で、少しずつ体内の血糖も減少し、60にゆっくりと近づいていきます。
血糖が下がり続けると、手先の震えや脱力感が生まれてきます。
それを防ぎ、エネルギーを得るために、即効性のある糖質を補います。
補給したことで、血糖が一気に90まで上昇しました。
分かりやすく、同じようにプラス30とします。
それに対応するため、インスリンも一気に放出されます。

 

ここで異なるのが、強度の運動をし続けているという事です。

 

そのため、90まで上昇した血糖を運動に使っていきます。
インスリンが作用し始めるまでに、20の血糖を使ったとします。
作用したころには、血糖が70になっています。
そこに、本格的に作用し始めたインスリンが、血糖を30下げようと働きます。
その結果、血糖が70-30で40となり、通常時よりも20少ない血糖となります。

 

これが、ハンガーノックの状態だと考えています。

 


長くなってきたので、ここで切ります。

次は、もう少し掘り下げるのと、解消法についてです。